一般社団法人『Tradition JAPAN』代表で、着物活性プロデューサーである矢作千鶴子氏の書籍『きょうは着物にウエスタンブーツ履いて』より一部を抜粋し、日本の重要な財産である「着物」について考察していきます。

『便利』さに翻弄(ほんろう)される時代の弱肉強食

『振り袖』は袖の長さではなく、『袖の付け根に穴を開けた着物』だったわけです。現在の常識になっている『振り袖=袖の長い着物』がいつできたのか調べました。江戸時代前期のようです。未婚の娘を持った親が盛んに踊りを習わせていた頃、自分の娘を目立たせて裕福な男性に見初(みそ)めてもらいたいという一心で、娘の袂(たもと)を誰よりも長くして競ったことが始まりだったようです。

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『本来の振り袖』の意味は、子供の熱を逃がすために振りを開けた袖。そして、『振り袖の長い袂』の誕生は、親が娘を目立たせる手段にしたことでした。

誰かの誘導によって、振り袖エピソードが、いつの間にか『振り袖が若い未婚の女性の礼装』という常識をつくったのでしょう。

成人式の着物については、戦後の1948年に「20歳になったら、今しか着ることができない振り袖を着ましょう」というキャンペーンが誰かの考案で始まり、それが今も続く成人式の風情になっているのです。

今でも成人式は、振り袖を売る書き入れ時(どき)。一生に一度の晴れ姿と、親御さんは大金を支払い、振り袖を購入する常識が続きました。そんな誰かがつくった常識の中、成人式で着た着物はタンスの中で眠り、一生で2回着て終わりという振り袖の運命が繰り返されてきました。