田畑さんは一度、振り返って手を振っている。どう考えてもひまりに手を振っているのだ。アッキーママの息子は、俺なんだぞと、言いたいのをぐっと飲み込み心の中で怒鳴っているアッキーだった。

ひまりは次の日の朝、登校してきたアッキーにささやく様に声をかけた。

「おはよう。今日、大久保駅近くの図書館でアッキーママの病気のこと調べてみようと思うの。アッキーも一緒にどう?」
「う~ん、まあ、いいけど」

気乗りがしないアッキーである。調べてみたところでアッキーママが退院してくる訳ではないのだ。知らなくて済むのならそれでも良いのかと思っているのに、ひまりはやけに積極的に調べようとしている。

それでも何故だか『そうきょくせい』の言葉はどこか、新鮮でカッコイイ感じもあった。病名がカッコイイとは変な印象ではあるが、最先端の病名なのだろうか、そんな事を思いながら放課後アッキーは渋々だが図書館に向かった。

ひまりはもう先に来ていて何冊も、医学辞典やら体験談の本を五~六冊抱えて机にドンと置いたところだった。まわりの人達は静かに勉強していたので、大きな声でひまりに話しかける訳にはいかない。

「こんなに取り出してきてどうするんだよ」

ぼそっと呟いたがひまりの耳には届かなかったようだ。

恋して悩んで、⼤⼈と⼦どもの境界線で揺れる⽇々。双極性障害の⺟を持つ少年の⽢く切ない⻘春⼩説。
※本記事は、2020年10月刊行の書籍『ずずず』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。