「なんで、触角だと思うの?」

「なんていうか、この部分はとても敏感で、例えば何かを知りたい時、迷っている時なんかに、特にジンジンとするし、熱くなって、大抵その日は眠れない。でも、次の日には、様々な目の前の問題たちの出口みたいなものが、見つかっていることが多いんだ。その突起で僕は、何かパワーみたいなものを、感じているのがわかるからさ」

「触角」

私は声に出して言ってみた。

「触角」

もう一度、さっきよりも大きく、はっきりと言葉にした。

「そうだ。君に会って、最初にこうなったときね。触角が、本当にジンジンして、熱くて、痛いくらいだったんだ。僕は気づかれないように、触角側の首に、君の顔を寄せないようにした。キスすると、たまらなかったんだ」

彼はいつも無表情で、あまり言葉も多くない。

でもこの時には、少し恥ずかしそうに見えたし、感情が、波打っているように感じた。

私は彼の首に頬を寄せ、キスをして、少しずつその場所を触角に近づけて、丸く唇を作ったまま、彼の触角を、そっと頬張った。

そして、飴を舐めるように、ゆっくりと舌で転がした。

彼は再び目を閉じて、私にされるがままに、深くため息をついたり、声を漏らしたりした。

私は、彼の秘密と、彼の触角への征服感に、気が遠くなるほど興奮していた。

※本記事は、2020年5月刊行の書籍『触角』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。