しかし、同じアメリカであっても所変わればである。Hoodでは、特に男性から女性に対しての声かけ、あるいは挨拶の仕方も独特である。ここにいると、年齢には関係なく、男は男、女は女ということを実感する。世代に関係なく男性は、女性に対して声をかけたければかける。無視されようが、嫌がられようが声をかけるのだ。女性たちは全く動じる様子はない。男性もある程度、挨拶と割り切っている部分があるので、それはそれでコミュニケーションの一つとして成り立っているようだ。男性から投げかけられる言葉もさまざまである。セクシャルな意味合いを含むことも多いが、これぞHood 流だと私は思っている。ラップやR&B、ソウル・ミュージックなどの歌詞を見ればわかるが、彼らのセックス・アピールや求愛スタイルは非常に直接的なものだ。

初めは、こういったコミュニケーション・スタイルに戸惑う場面も少なくなかったが、最近では、男性たちの独特な表現にもだいぶ慣れてきたつもりでいた。しかし、16 歳の少年が何気なく放ったその言葉に、私はかなりの衝撃を受けたのだった。

Tに早速、自分の複雑な心境を語った。すると彼は、私から少し離れ、斜め後ろに立ち止まった。右手を顎に当てながらにやけている。“Let me see...(どれどれ…)”「ちょっと冗談じゃないんだから。どうなの?」「あのなー。10 代の男にとって、ポルノ・スターはNo. 1 なんだよ。理想はまさに、ポルノ・スターなんだ。気にすることじゃねーよ。最高の褒め言葉だぜ」。とりあえずは、あまり深く考えず、受け流せってとこか。

※本記事は、2020年11月刊行の書籍『HOOD 私たちの居場所 音と言葉の中にあるアイデンティティ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。