広瀬の『補助金と政権党』が発行されてから40年近くが経過し、補助金は、特に広瀬が問題とした農業補助金は、大きく変容した。しかし、広瀬が危惧した「補助金の肥大化」には歯止めはかかっていないといっていい。見直しや整理はなされたとしても新たな補助金がつくられるし、「補助金」という名称がなくても実質は恩恵をちらつかせた補助金である制度も多い。

例えば、1988(昭和63)年から1989(平成元)年にかけての「ふるさと創生事業」では、各自治体に1億円が支給された。1999(平成11)年には「地域振興券」が各家庭に配られた。ばらまきに近いようなものであっても、補助金が増えることは実は悪い事でもないという見方もできる。

例えば、太平洋戦争当時、すべての財源は軍事費にあてられ補助金どころではなかった。補助金が増えるということは平和な時代だともいえる。

しかしだからといって、補助金が単に党利党略のためにだけ使われることがあっていいはずがない。それは税金なのだから。

広瀬が提示した補助金と政治の関係の問題は、何十年経過しても、やはり考え続けていかなければならない問題なのだ。補助金がしっかりと行政に組み込まれている日本のシステムが大きく変わらない限りは、それは永遠の課題であり続ける。

【まとめ】

〇補助金をめぐる不正はすでに18世紀の英国で発生している。
〇日本では、戦後、特に農業補助金に関する不正が注目されるようになった。
〇補助金についての不正防止のため「補助金適正化法」が制定されているが、この法律が適用される例は多くはない。
〇補助金についてのモラルハザードは支給する側にも発生する可能性がある。
〇補助金をめぐっては、「口利き」など、ゆがめられた政治的利用が見られる。
〇政権党は補助金を党勢拡大に利用してきた。
〇「大きな政府」であることによって長期政権が可能になっている。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『補助金の倫理と論理』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。