奉公

おさきは優しい女であったが、主人の手前、伊助は厳しく躾けられた。伊助の最初の仕事は家人用、雇い人用の風呂の番だった。

風呂は農作業の一日の疲れを癒し、明日への力の源になるものだから精魂込めて励むようにとおさきに言われ、雨の日も風の日も水汲みから掃除、そして終湯まで外で釜炊きをさせられた。伊助が湯に入る頃はいつも濁った湯になっていた。

仕事は年を追うごとに増えていった。鶏の世話から薪割り、粗朶(そだ)集め、肥出しや雑事畑の手入れまでなんでもやらされた。体力仕事のうえ、育ち盛りの伊助には一汁一菜では足りず腹が減って仕方なかった。

ひもじさを満たすため鶏の卵をくすねて飲んだり、畑の大根や人参を掘り出してかじったりして腹を満たした。こうしたことを告げ口する雇い人もおり、飯抜きの仕置きをされたことも数えきれなかった。

そうしたとき、そっと握り飯をくれたのがおさきだった。手習いに行かせてもらうことはなかった。そこで、読み書きはおさきや雇い人で古参の吾作(ごさく)から釜炊きしながら習った。