時の流れが染み込んだ柱・廊下・壁の色合いから百年は軽く経っていると推察される。御茶を出して、そのまま引っ込もうとする店員に注文したい旨を告げると、「もう通ってますから」との返事。

昼は親子丼しか出さないことは京都の皆さんは承知のことですからと言いたいようだ。注意書きも何もないので、九州の人間には分からないシステムとなっている。

丼というより、大き目の茶碗が出てきた。さすがに京都は、丼も上品なサイズになっている。積乱雲状にモクモクと盛り上がったとじ卵と、プリプリの鶏肉の食感の組み合わせが面白い。おじやの様な薄味の味付けなので、柚子胡椒か、せめて一味唐辛子といった薬味がほしかった。

暑い最中に、丼物を食べたので、体の中が煮え滾(たぎ)っている。こりゃ堪らん、冷たい物を入れなければ、ということで和菓子の老舗に避難する。

この老舗は二階が喫茶室になっている。かき氷を欲したが、宇治金時と梅蜜の選択肢しかない。宇治金時は余計に喉が渇きそうなので、梅蜜を注文。

粉雪状の氷に梅シロップをかけた上から梅酒でコーティング。梅酒の香りが鼻腔をくすぐる。スプーンで一口、涼風が食道を駆け抜け、梅酒のアルコールが脳に大文字焼きの火を灯す。

美味い。アルコールが苦手な僕でも美味い。千円という値段を高いと思っていたが、これなら納得だ。

※本記事は、2020年11月刊行の書籍『サラリーマン漫遊記 センチメートル・ジャーニー』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。