近年、MRI検査で脳の中の海馬という記憶を司る部位に脳梗塞と類似した異常信号を認めることが報告され、海馬の障害による疾患であると考えられています。しかし、その機序(脳血管障害によるものか、てんかん発作によるものかなど)については、いくつかの仮説が想定されているものの、いまだに明確ではなく、いわゆる「原因不明」とされています。

一過性全健忘は50~60歳代の中高年に多く、男女で発症率に差はありません。前述のような特徴的な症状で発症しますが、ほとんどの場合後遺症もなく回復し、再発も少ないことから予後良好な疾患であると考えられています。1年間で10万人あたり5~10人程度の発症率が報告されており、それほど稀な疾患というわけではありません。また、頭部外傷や飲酒、睡眠薬などにより同様な症状が起こりうることも知られています。

一過性全健忘は「記憶障害のみを呈する」ことが重要であり、その他の神経症状(手足が動きにくい、言葉がうまく話せない、リモコンなどの簡単な道具が使えないなど)を伴っている場合は、脳梗塞などの危険な疾患を合併している可能性が高く、すぐに救急病院を受診する必要があります。

詳細な問診と診察の上、脳梗塞など危険な疾患の可能性を除外するために頭部MRI検査を始めとした詳細な検査を行います。検査により脳梗塞などは除外できても、例えば高血圧、糖尿病、脂質異常症、不整脈などの脳梗塞の危険因子が判明する場合もありますので、十分な検査をお勧めします。

※本記事は、2018年5月刊行の書籍『改訂版 認知症に負けないために知っておきたい、予防と治療法』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。