昼間の銀行は、冷房がよく効いていた。作業服の男、商店の主人風の人やおばさんがいた。ぼくは、いちばん若く優しそうな女性の行員の窓口に立った。

「あの、お金出したいんですが……」

彼女は、伝票をめくる手を休め、「出金伝票が後ろの机にありますから、通帳番号と金額を記入してください」とにこやかに笑い、教えてくれた。伝票に番号と「七万円」を記入するだけなのに、何度も間違え、五枚の伝票を破り捨ててしまった。

やっとのことで書き上げ、窓口に持っていくと、「印鑑がありませんよ」と言われ、うろたえた。喉が痛いほどからからに乾き、慌てて鞄をかき回して銀行印を取り出した。判は何回捺してもうまく捺せない。

「こちらでやりますよ」

若い行員は受け取り、伝票に判を捺してテッシュで拭き「ありがとうございますと」と返した。

「少々、お待ちください」

ぼくはソファーに腰かけて待った。窓口の行員が上司に呼ばれ、ひそひそと何かを話している。上司は電話をどこかにかけた。ぼくはますます不安にかられた。

※本記事は、2018年3月刊行の書籍『ブルーストッキング・ガールズ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。