「店員さん、すんません! 僕のは青のり抜きで」

「え? マコト、お前、青のり抜くの?」

「うん。駿ちゃんも抜いとく?」と関西人としてあるまじき質問をするので「抜かへん、抜かへん。抜かへんよ〜」と返す。「青のり、入れるでええねんな?」と念押しするマコト。「お前、正気か? たこ焼きに青のりは絶対いるやろ。青のり外すなんて意味わからんねんけど」と彼に問う。

「だって、歯につくやん」

「女子やん」

「だって、前歯に、青のりビッタァ、ついてたら恥ずいやろ?」

「女子やないか! ティーンの女子が言う事やん。前髪切り過ぎて、大好きなあの人に見られたくないから学校休む感じの女子と言うてる事、一緒やで」

「駿ちゃんは、前歯に青のりついてるのん、恥ずかしないん?」

「アホか。お前は、ほんまにアホやなぁ。青のりが前歯についてること自体はダサいよ。でもな、それはな、なにわ男子の勲章やん。お口まわりを青のりまみれにして、磯の香り世界中へ振りまいて、たこ焼きを食らうっちゅうのが尼崎スタイルちゃうのんか?」

「尼崎スタイルて何やねん。そんなスタイル聞いたことないわ」

「仏作って魂入れず、って故事成語知ってるか?」

「わからん」

「画竜点睛を欠くは?」

「知らんて。俺、駿ちゃんみたいに勉強でけへんから」

「お前のやってる行為は、こういうことやからな。たこ焼き作って青のり入れず、たこ焼き青のりを欠く、や! 一番肝心なものが抜けとるでっちゅうことや!」

「駿ちゃん、めんどくさいわ。はよ、たこ焼き食お。冷めるで」

放課後。「たこ一撃」という学校近くに最近オープンしたたこ焼き屋に、マコトと二人で来ていた。新規オープン100円割引きセールと書いたチラシを見てこの店を知った。この店のオーナーは、20年前に卒業した僕らの高校の先輩らしい。クラスメイトの塚田から聞いた。

僕らを接客した店員がピアスまみれのイカついヤンキーだったこと、「たこ一撃」という格闘技の臭いを感じさせる店の屋号など、総合的に判断するに、おそらく元ヤンキーの先輩なんやろなぁ、と僕は会ったこともない20コ上の先輩に思いを馳せながら、たこ焼きを頬張った。

「うまっ! やっぱ、たこ焼きは無双やな、駿ちゃん? 今度美樹を連れてきて食べさせたろ」

「お前ら仲ええな。アツアツカップルやんか」

「たこ焼きだけに、アツアツやねん」と言うマコトが超絶面白くなかったので僕は無視。

「ちょっと! 駿ちゃん、無視すんなって。ボケのスルーは関西では犯罪やで」

「あ、ごめん。オモロなさすぎて気絶してた。あと、アツアツ言うてもうた自分に責任感じて、舌噛みきって死んだろかとも考えてた」

「大げさやて、駿ちゃん。しかも死に方、昔のやり方!」

※本記事は、2019年11月刊行の書籍『尼崎ストロベリー』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。