「はい、それでは次の方、自己紹介をお願いします」

チータ女と僕の間に挟まれて座っていたアメフトかラグビーをやっているだろうなと想像させる、どでかい体格の大学生風の男。彼の太ももが、すみませんと申し訳なさそうにパイプ椅子からはみ出しており、僕の右半身を圧迫していた。

隣にいるだけで体温が2度ほど上昇となりそうで、僕は不快であった。面接官の質問に男子学生が低音ボイスで返答。

「私は、クマのような人間です」

嘘つけぇ! 完全に前の奴に引っ張られてもうてるやん。もういいです、動物たとえ。クマって何よ! 体型やん! もはや、それは外見やんか! 百歩譲って、チータの例えは、自分の行動力をうまく例えて、自己PRにつなげてたから成立はしてるけども、外見のまんま例えてどないすんねん。こいつアホか!? お前が例えたら、俺も自分を例えなあかん感じになるやんけ、と頭の中で呟いていた。

クマ男の次は、僕の順番が回ってくる。クマ男の面接トークなんて、もはや僕の頭に入ってこない。お笑い脳の僕はどのようなオモシロ回答をするかで頭の中が一杯だ。僕の頭はもはや、この面接試験を大喜利大会として捉えてしまっていた。こんな自分の状況を俯瞰すると、ちょっと面白くなってきた。

面接に合格するだとかもうどうでもいい。ただただ面白い回答をしたい。それだけだ。チータ、クマ、と続いた。次はどうすればいいものかと、面接官が握る鉛筆の先を見つめながら僕は考えていた。お笑いで言えば僕がオチ。動物、動物ときて、次はどうすればいいのか。

正解はなんだ、とぐるぐるぐるぐる頭を捻っているうちに僕の順番が回ってきた。面接官が僕の名前を呼ぶ。僕は頭と背中を一直線に彼の方へ延ばしてお辞儀をする。面接官が自己紹介を僕に振る。焦った僕は咄嗟に目に入ったものを口にして、躊躇なく例えてしまった。

「それでは、自己紹介をお願いします」

―はい! 私は、コピー機です―

自分が情けない。チータ、クマに負けないくらいの珍回答。恥ずかしながら、全く意味不明。願わくば、この場所で舌を噛み切って自害してしまいたい。終わった。完全に終わった。何が終わったかって言うと、面白くもなんともない。

自分が座っている場所から、ちょうど会場の隅っこで沈黙しているコピー機が目に入った。どうにかして、チータ女とクマ男よりもトリッキーな返しを放たねば、というお笑い根性から咄嗟に出てしまった、まさかの「私はコピー機です」。

面接官は、チータの時よりもクマの時よりも真顔だった。死んだ魚のような眼をして、「そうですか」と消え入りそうな声で言った。僕はこの回答をすぐに撤回したくなった。

よくよく考えてみても「私はコピー機です」は相当ヤバい。意味がわからない。面接官が「なぜ、コピー機なんですか?」と全く興味がないだろう惰性の感情で僕に質問をしてきた。

「私はコピー機のように、利口(RICOH)な人間だからです」

と巻き返してみようと、カウンターを打ってはみたものの、時すでに遅し。全くもって間に合わなかった。取り返せなかった。

その後の面接のやりとりについては、ほとんど記憶に無い。忸怩たる思いが強すぎて、僕の脳が記憶を消去したのだろう。マコトは圧迫面接を受けたらしく、ぐうの音も出なかったと言っていた。

その後、この某レストランから合格通知は届かなかった。至極当然で健全だ。僕が面接官であったとしても、人間コピー機を採用したりなんかしない。

※本記事は、2019年11月刊行の書籍『尼崎ストロベリー』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。