日ごろ飄々としている風間が無念そうに言うと、村上は天井を見上げて、黙然と腕を組んだ。十五年たって、村上は少し太った。議員秘書と言う肩書きは伊達ではない。一癖あって頼もしそうな顔になっている。だが、そのとき精悍な顔は少しゆがんでいた。

「そうか、君がそういうのだから、よほどの人物なんだろうな」
「驚くのはまだ早いよ」
「脅かすなよ。苦労してるんだからな」
「しかし、これは言わなけりゃならない。僕もずいぶん調べたんだぜ。どこから君に話していいのか分からないくらいなんだ」

風間は息を継いだ。興奮しているのか、自分でも息が苦しい。持病が出てきたのだろうか、と風間は思った。

村上夫人の悦子がお茶を持って入ってきた。にっこりと会釈すると、村上が難しい顔をしているのを見て、そのまま出て行った。

村上と悦子は、大学時代から付き合っていた。悦子の方が一歳上で、お気に入りのタイプの村上に接近したのだと言う噂もある。村上が就職するとすぐに結婚し、もう十四年になるが、すごく若々しい。

「戸隠という男のことは調べたのか」

やがて村上は言った。

「それを言う前に」と風間は答えた。
「ちょっと聞きにくいことなのだが、香奈さんの勤めている学部の十年前の主任教授は、何と言う名前だった?」

村上は驚いた顔をして風間を見据えた。

「十年前? 佐藤教授と言う人だが……それがどうかしたのかい?」
「どんなことをやっている人だか、香奈さんに聞いたことはあるかい?」

風間がそういうと村上はふと黙って、風間をじっと見た。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『百年後の武蔵野』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。