昼食を手早く済ませ、音楽棟に偵察に行った。

やっぱ女子多いな…。

「あっ」

「こんちは」

何人か顔見知りの子が、目が合ったら笑ってくれた。

軽音の子かな?

「シーナくん」

「どうも」

「今日も教えて!」

「もちろん」

いまの子は俺の「生徒」だっけ。

たしか…、タカナシさん。

一期一会、

俺の特技のひとつで、本人から聞いたらまず名前は忘れない。

まてよ、ワタさんのクラスどこだっけ?

とりあえず端からみてくか…。

入口付近にいたショートカットのメガネの子に声をかけた。

少し大きめのボストンフレームが、小さな顔をますます小さく見せていた。

「ここに渡瀬さんていますか?」

「あっ、今ちょっと先生に呼ばれてて…」

ビンゴ! でもタイミング悪かったな。

「そっかー、ありがとう。また来ます」

「あのぅ、もしかして…軽音の」

「はい?」

「ドラムの人ですよね」

パチッと目が合った瞬間に、わかった。

見つけた!

「そう。臼井さんも今日来る?」

「うん? 多分。合唱部みてきたんだけどなんかピンとこなくて」

「絶対来て」

「えっ?」

「待ってるから」

ベシッ!と背中を叩かれ、振り向くと、おぉ、ワタさん。

「どしたの? もしかして、やっぱうちのバンド入る?」

「やっ、入んない」

「ワタさんを探しに来たんだよ」

臼井ちゃんが笑ってる。

「ほらやっぱり。いいよ、入れてやっても」

「ちが! ちょっと別件で、探し物」

「何? なんか貸そうか?」

「大丈夫。もう見つけた。じゃあ、部活で!」

「何なん?」

不思議そうな二人を残し、美術棟に戻る渡り廊下を足早に進みながら、俺は心の中で何度も小さくガッツポーズを決めていた。

「何しに来たんだろね」

「ドラム上手だし、ちょっとかわいいよね」

「あんまり言わない方がいいよ~、本人はコワモテになりたいみたいだから(笑)」

「ふぅん」
 

※本記事は、2020年11月刊行の書籍『人間関係貧乏性』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。