Tはヘビー・ドリンカーであり、煙草とWeedが大好きなヘビー・スモーカーでもある。そのせいか、いつ見てもどことなく目が充血して潤んでいる。昼間、太陽の下で見るTと夜、暗闇で見るTもQ.B. と同様、どこか違って見える。

暗くて、危険を察知する感覚が鈍くなる分、身体中のセンサーをフルに働かせながら、暗闇にかろうじて見える人影や物音、においや空気をたよりに、いま自分のまわりで起きている状況を一つひとつキャッチしていかなければならない。私と話しながらも、Tはより一層神経を研ぎ澄ませ、まわりの少しの変化にも敏感に反応しているように見える。

そんな彼の態度やいつになく鋭い目線が私を緊張させる。私たちは、駅とは反対方向にゆっくりと歩いて行った。

前方に見える大きな公園には野外ステージがある。ときどき大物アーティストを迎え、イベントが催されるという。また、そこには煌びやかに光を放つQ.B. を背景に大きなグラウンドが隣接しており、野球場やバスケットボール・コートではナイトゲームを楽しむ者もいる。

公園を正面にして、右手にはDeliやLiquor Store(酒屋)など、小さな店がいくつか建ち並ぶ。この時間帯にはほとんどの店がシャッターを閉めている。左手にはプロジェクトが何棟にも連なっている。

ちょうど、この一帯でTが突然立ち止まった。

※本記事は、2020年11月刊行の書籍『HOOD 私たちの居場所 音と言葉の中にあるアイデンティティ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。