ぼくは幼い頃から、こんな感覚の夢を何度も見たことがある。友達は空を飛ぶ能力を身につけている。彼らは実に悠然と楽しげに飛翔していく。ぼくも羽を広げて飛ぼうとするが、飛び上がることができない。足は地面を離れない。何度も何度も跳躍を試みる。しかしぼくは飛び立つことができない。悲しさと悔しさでぼくは目覚める。

そして暗い天井をじっと見つめる。そのもどかしさは、どうしても開かない錠であったり、長い旅に出るための列車に間に合わないことだったり、大事な人との約束の場所にたどり着けないことだったりした。小さな店内で迷い、入口に戻ってしまうのは、そんな感覚とよく似ていた。それにしても、これは馬鹿馬鹿しいほどたわいもない現実なのだ。

そして、なぜぼくはこの小さな店の中で迷って、途方に暮れているのだろうか。そうだ、あの主人に聞いてみればいい。それは当然すぎるほど簡単な方法だった。「ごめんください」。大声で呼びかけたが、返事はない。

もう一度呼んでみた。声は棚と棚の間に吸い込まれていくかのようだった。そう言えば、ぼくはあのレジにすらたどり着けていないことに気付いた。

※本記事は、2018年3月刊行の書籍『ブルーストッキング・ガールズ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。