「すみません、仙人サマが住んでいる家というのはここですか?」
「いえ、皆が僕のことをそう呼んでいるだけです。でも悩みの相談はしますよ」
「仙人サマ、思ったよりも若そうですね、私よりも若いのではないですか?」
「はい、僕はそんなに歳を取っていませんが、悟りを開いています」
「私より生きている時間が短くて悟りを開けるのですか?」
「悟りを開くのに時間は関係ありません」
「でも人生の経験は少ないでしょう?」
「そのような外側から入ってくるものは必要ないのです。実際どんな仙人でも僕のように何も経験できないようなところで生活をして、悟りを開きます」
「なるほど」
「説得力があっても間違っていることはあるでしょう? だから何を信じれば良いのかというと、自分を信じれば良いのです。内側から出てくるものを信じれば良いのです。だからこれから僕があなたに教えることはあなたにとって外側から入ってくるものです。あなたがこれから悩んで答えに近づくためのきっかけに過ぎないのです。だから僕が言うことを鵜呑みにせず、心の片隅に置いて、ただひたすら悩んでください。その結果答えがわかったなら、それはあなたが自分で気づいたことだと思って良いでしょう」

ここまでの話は、ここに来る者すべてに話していることである。

「ところであなたはここへ悩みを相談しに来たのでしょう? 悩みは何ですか?」
「はい。実は、私は何もしていないのに物を盗んだという、ぬれ衣を着せられてなんとか逃げてきたところなのです。どうすれば良いのでしょうか」
「もし捕まってもそれはそれで良いでしょう。罪に対する罰の中で一番大きな罰は罪悪感です。あなたはその罰を与えられません。そして真犯人はどこへ逃げても最大の罰が与えられます」
「なるほど」

そう言って彼は帰っていった。

※本記事は、2020年2月刊行の書籍『令和晩年』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。