気づかないふりをして別れのあいさつをする。議員が会社を離れてから、「先生、バッグをお忘れでした」と電話するのだ。すると議員は、

「おお、そうだ。いまから秘書に取りに行かせる」

と言う。あとで秘書が、その財布にしては大きいバッグにしては小さいものを取り来るのだが、それに1万円札を数十枚入れて渡すのだ。100万円でも入るのだが。

そのあとで議員が「君ねえ、お札が増えていたよ」と言ってくることは絶対にない。なにしろ国会議員なので天下国家のことで頭がいっぱいで、自分の財布にお金がいくら入っていたかなどには関心がないのだから。

この話も政治資金パーティ券の話もそうだが、私は議員諸氏を糾弾しようとしているわけではない。私の言いたいことは、補助金、特に補助金Bについては、必ず口利きに類する問題が発生するものであり、それを防ぐのは非常に難しいということだ。

先に挙げた政治資金規正法22条の4には、3年連続して欠損を出している企業は、その欠損がカバーできるまで政治活動に関する寄付をしてはならないという規定がある。

政治家にしてみれば、献金しようとしている企業が補助金をもらっているのか欠損を出しているのか調べるのは大変だと思うが、この条文の趣旨は、「赤字なのに政治献金する必要がありますか、そんな金があるのなら赤字補てんに回しなさい」ということだと思う。まったくもって当たり前のことだ。

にもかかわらず、わざわざ明記せざるをえなかったのは、赤字でも政治献金しようとする企業があるからだ。企業にしてみれば、赤字だからこそ、例えば補助金を引き出すために先生方に口利きをお願いする、そのための政治献金ということになるのだろう。

難しい問題だ。補助金をまったくなくしてしまえば口利きもなくなるのだが、再三述べているように、補助金がなくなることはない。

では、不正も口利きもどうやっても防げないのだからとあきらめるしかないのか、というとそうでもない。完全に防ぐことはできないが、少なくする方法はあるのではないかと私は考えている。それについては次章で触れる。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『補助金の倫理と論理』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。