島崎は一瞬真顔になり、それから笑みを戻した。

「あくまで一般論ですが、ないとは言い切れません。数ある文学賞の中には、主催出版社の関係者が審査に絡むこともあります。その場合は、出版社の意向が選定に影響を与える可能性は否定できませんね。もちろん、あくまでその候補作が受賞に値するレベルに達しているという条件付きですが。でも、青陵文学賞ではそれを排除するために、うちの関係者は審査に加わっていませんし、選考過程も含めて受賞作以外は一切公表しません」

ここで島崎は「タクちゃん、ニコラシカを」と注文し、タクちゃんが「そろそろ〆ですね」と返した。リキュールグラスにブランデーが注がれ、その上に砂糖をまぶしたレモンの輪切りが乗せられた。島崎はしばらくそのグラスを見つめ、「お前さんが登場すると一日が終わったという気分になれるよ」そう語りかけてブランデーの香りを楽しんだ後、舌の上でころがした。

「今日はすみませんでした。わたしのせいで長い一日になってしまったようで」

多忙な島崎が自分のために貴重な時間を割いて胸襟を開いてくれたことに、心の底から感謝の念を抱いた。