小見出しにそう書いてある。八荘源という名前に引かれて、香奈は相変わらず無感覚な気持ちのまま記事を読み出した。

「十日、午後四時ごろ、竹尾村八尾町の山林で、三十代から四十代と見られる女性の死体が発見された。

服装や所持品などから見て、県警では八月から行方不明になっていた榊原節子さんの遺体とみて鑑定を急いでいる。なお、一緒に不明になった夫の榊原良夫さんは発見されていない」

「やあ、びっくりしたよ」と村上は言った。

「よりによって八荘源だものなあ。びっくりして学校の図書室で、他の新聞も読んだんだが、もう少し大きな取り扱いの記事もあってね、バブル後の不況のあとに地方の別荘地がさびれて荒廃し、犯罪の温床になっているなどと言う解説まであったぞ。それにしても」と村上は蛇足を付け加えてしまった。

「香奈も失恋して一人旅に出るなんて、相当に純情だなあ」

「お兄ちゃんなんか嫌い」

村上が慌てたことに、香奈は再び自分の部屋に閉じこもってしまった。村上は難しい顔をして、テレビをつけて眺めだした。ちょうど時事的な問題を討論する番組の時間で、日本が経済的に二流国になる危機を訴える内容だった。リーダーシップを取れる人材が育たず、優秀な官僚や一流の技術者を輩出する代わりに、汚職や国際競争での敗北を招いたのはなぜかと言う犯人探しになっていた。

俺の活躍できる年代には、日本はもう二流国に転落しかかっているのか、村上は残念そうに呟いた。

八荘源ルポライター蒸発事件は、その後は何の進展もなかった。別荘地は荒れ果ててこけが生え、わずかばかりの事件の当事者たちも時と共に確実に老いていった。かくして、この事件は迷宮入りし、十五年の歳月が流れ去った。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『百年後の武蔵野』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。