〝しかし…?〟

しばらく考えていたが…テキーラとマリファナが、禅の思考能力を低下させていた。

「どうだ?」

禅は鈍る思考で考えた。

〝もう店も限界だ…何かをやる事も出来ない…これ以上、親にすがるのも限界だろう…〟

返事を迫る剛史に押され、禅はうなずいた。

「分かりました、やりましょう」

禅は〝それだけで金が入るなら〟という簡単な気持ちだった。

賢一は大学を首席で卒業した。そして警視庁に入った。警察官僚として、まさにエリートだった。禅は、それを風の便りで聞いていた。

「賢一、お前は大した奴だよ」

子供の頃から運動神経が良く、クラスの中心的な存在だった禅。子供の頃から取りえが無く、根暗でイジメられていた賢一、それが今は…完全に逆転の人生を送っていた。人の人生は時に残酷だ。どこで歯車が狂い、明暗を分けたのか?

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『アリになれないキリギリス』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。