人形

鴇子がいなくなっていたことで何気なく棚を見回しているうちに、これらの物たちに逆に見入られてしまっていたのだ。気付くと、時間がずいぶん経ってしまったようだった。

ぼくはこのとき、誰かの視線を感じた。ぼくは辺りを見回した。柱時計の振り子が刻む音だけが聞こえる。恐る恐る棚の向こうを覗くと、夥しい数の人形がいた。

ぼくは息をのんだ。人形たちはみな金髪の少女で、ひらひらのついたレースや、つやつやのビロードのドレスを着ていた。

顔は白い陶器でできていてふくよかだった。見開いた眼は碧く、ガラスの瞳を光らせていたが、ぼくを見つめていそうな眼はなかった。

背後で別の視線を感じた。振り返ると、まるで幽霊のように、暗闇の中から背の低い老人が現れた。びっくりしたぼくは、上ずった声で叫んでしまった。老人はぼくを見つめると静かに言った。

「あなたは?」

老人は麻の白い背広に、赤い蝶ネクタイをしていた。針金のように細い銀縁の丸い眼鏡を上げて、もう一度ぼくを見た。

「ぼ、ぼ、ぼくは付き添いで……」

何とか取り繕おうとして、ぼくは答えにならないような答え方をした。

「付き添い?」
「鴇子に連れて来られたんです」
「ときこ?」
「あの、小さくって、こまっしゃくれて、うるさい女の子です」

ぼくは、しどろもどろになっていた。