なお、所論が、診療中の患者が死亡した場合には、死体の検案はあり得ない、したがって、診療中の患者の死亡の場合に医師法第21条を適用することは、罪刑法定主義(憲法第31条)に反し、また、不利益供述の拒否特権(憲法第38条1項)に反すると主張していたところであるので、この点についても便宜ここで判断しておく。

まず、医師法第21条に定める届出義務が発生する場合については、前記のとおり解釈すべきものである。また、このように解釈して同条を適用することが憲法31条に違反することもないというべきである。

次に、医師法第21条が要求しているのは、異状死体等があったことのみの届出であり、それ以上の報告を求めるものではないから、診療中の患者が死亡した場合であっても、何ら自己に不利益な供述を強要するものでなく、その届出義務を課することが憲法38条1項に違反することにはならない。

※本記事は、2020年5月刊行の書籍『死体検案と届出義務 ~医師法第21条問題のすべて~』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。