京都

ひとりの少女を追っていた。少女はこげ茶色のワンピースの裾をひるがえし、白樺のあいだを舞うように落ち葉やら小枝やらを踏み越えていく。

はじめ、少女は気まぐれに駆けだしたのだとぼくは思った。心細い思いをわざとさせて、ぼくをからかっているにちがいないと。

しかし、白樺林はしだいに木深(こぶか)いものとなり、立ち込める霧の向こうに少女のまとうワンピースを見失いそうになるにつれ、少女が気まぐれでないことをぼくは悟った。もしこのまま見失ったら、少女はぼくの前からすがたを消し、もう二度と会えないかもしれない。

とつぜん、林檎をつぶしたような悲しみがぼくの胸に広がった。君のことだけを思っていたんだ。そう少女の背中に呼びかけるのに、ぼくの口からは言葉となって出てこない。

思いを伝えられないまま、少女のあとをぼくは追う。飛び出す枝が顔を叩き、木の根に足がもつれて転びそうになる。呼吸が乱れて息が切れる。

それでも少女を失いたくない一心が、ぼくを前へ前へと進ませる。すると、少女ははらりと足を止めた。

追いついたぼくは息をととのえるのももどかしく腕を伸ばした。もう決して離すまいと。ところが、少女のからだはすっと遠のき、その直後、川の流れがふたりのあいだを分けていた。と同時に、ぼくの目に映るその人は、もう少女ではなくなっていた。