四季がある日本は移ろいやすいのだろうか。
行き交う人々の心や街の景色は千変万化で、過去はさらに記憶の彼方へ押しやられてしまっているかのよう。
だが、南の島々には、あの戦争を経ても変わらぬ日本の心が残されていた。
過去と現在、時間の結び目を探しながら、日本古来の清き明き心を見つける旅の歌短歌集を連載でお届けします。
水温む二月の島に媼らが 早苗たづさへ田植ゑはじまる
【石垣島】
*石垣島では、一月末から二月はじめにかけて田植えをする。六月には収穫。
冬ながら御嶽(うたき)の森に水色の 紋様の蝶舞ひあそびをり
【新城島(あらぐすくじま)】
*リュウキュウアサギマダラ(マダラチョウ科)。
マングローブの干潟の穴にすむ蟹の 紅き鋏をひらき威嚇す
【西表島(いりおもて)】
*仲間川。
**蟹 ここではベニシオマキのこと。
※本記事は、2014年2月刊行の書籍『歌集 忘らえなくに』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。
序文
短歌とは、日常のささいな出来事を記すものだろう。いくつかを試みた。
私の関心はもっぱら、日本の自然の美しさ、移ろいにある。小笠原諸島や八重山諸島への旅。身近な四季をりをりの移りゆく姿にそれを見出した。
私の生きながらえた七十年の歳月、その間に世界や日本で起きたさまざまな出来事を、ありのままに記しておきたい思いが、胸の底からふつふつと湧き立ってきた。
これはまさしく自分史の一部を記すことでもある。
二〇一四年一月十五日
松下正樹