「痛いです」
「早く良くなるためなので頑張りましょう」
荒木先生は冷たくそう言うと、容赦無くさらに奥までガーゼを押し込んだ。

ガーゼを奥に押し込んでは取り出してを何度か繰り返して、汚れが少なくなってきたところで、最後にきれいなガーゼを押し込んで上からテープを貼って固定する。

「これを朝夕2回、しばらく続けますね」
「はい」
患者さんは観念したように力なく返事をした。

「ドレナージの仕方は分かった?」
病室を出ると、荒木先生は僕に言った。
「はい」
「次からできるよね?」
「はい」

創感染に対しては洗浄ドレナージ。痛がっていた患者さんには悪いが、僕は自分の手札が1つ増えた気がして嬉しくなる。今は毎日のように初めての経験をする。1つ1つものにしていかなければいけない。

荒木先生は僕にいろいろと教えようとしてくれているのに、僕はその荒木先生を怖がって報告を後回しにしてしまった。反省しなければいけない。

それ以来、僕はより積極的に上の先生に相談し、必要と判断すれば自分で処置をするようになった。

「〇〇さんですが、術後7日目なのでステープラを抜鈎(ばっこう)しておきますね」
「おう、よろしく」

「〇〇さん、もう食事も全量摂取できていますし、そろそろ退院できると思うのですが」
「じゃあ退院許可を出して、僕の外来に予約を入れておいて」
「分かりました」

積極的に相談することで、自分もチームの一員として働いているという貢献感のようなものが感じられた。

「〇〇さん、炎症が遷延(せんえん)しているのですが、どうすればいいでしょうか?」
「造影CTを撮ってみようか」
「はい。そうしてみます」

分からないことがあっても、素直に聞けば対策を教えてもらえた。
(聞いてもいいんだ)
病棟のことは苦手だけどこれを続けていけばきっと成長できる。そう思った。

※本記事は、2020年7月刊行の書籍『孤独な子ドクター』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。