田畑さん

個室とは俗に言う特別室なのだろうか、なぜ今、アッキーママが個室で『面会謝絶』なのだろう。

そして、また田畑さんはひまりに向かって唐突だがとても小さな声で言った。

「手紙をアッキーママに秘密で渡してあげようか?」

ここの病院とデイケアには売店があり、イートインもあるからそこで話をしようかと、田畑さんは提案した。眼鏡をかけた女性と背の高い男性の近くでは、田畑さんに色々聞きたいことも聞けないので、アッキーとひまりは素直に後ろに付いて歩くことにした。

「売店は三階にあるよ」と、田畑さんはまたひまりの顔だけを見て、少しだけ腰をかがめて言った。アッキーは何だか、ひまりを取られたようで面白くない。三階までエレベーターで行こうとまた話しかけているではないか。アッキーママとも友達だと言っている。本当に信用していいのだろうか、その辺にいる、いやらし気な男かも知れない。

一階からエレベーターに乗ろうとしてドアが開いた。幼稚園くらいの女の子が、隣にいるお母さんらしい人に頭をたたかれていた。いやたたかれているのではない。ずっと、ずっと頭をたたかれ続けている。

その女の子は泣きもせず、痛いとも、止めてとも何も言わず顔は固く無表情であった。あの子は家に帰ったらどうしているんだろう。アッキーとひまりも、そう考えているに違いなかった。精神科とはどんなところなのだろうか、どんな患者がいるのだろうか。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『ずずず』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。