そこで、七里ケ浜から藤沢方面に出る方が早いか、鎌倉方面に出る方が早いかは、一刻を争う場合には、実に微妙な問題で、即座(そくざ)には判断しがたいのだ。その日、さぎりは悩なやんだ末、鎌倉ではなく藤沢方面を選択した。上野東京ラインの韋駄天ぶりに懸かけた思いであった。

同じ、新橋へ到達するにしても、ラインなら高いホームの二番線で、高架(こうか)から一階分階段を降りさえすればすぐに改札口に行ける。駅から素早く出られるのだ。これに対し、横須賀線は地下五階という、核爆撃に備えた防空要塞(ぼうくうようさい)のような、とんでもないモグラ駅に到着することになる。

エレベーターがあるとはいえ、駅から出るだけでも大変な時間を要するのだ。そんなことも、さぎりの脳裏(のうり)を過よぎったのであろう。地下五階より地上の高架ホームを選んだ直感は決して間違いではなかった。

※本記事は、2020年12月刊行の書籍『奇跡の軌跡』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。