公庫の融資、県の補助金交付事務といった実務経験をもとに、日本の金融と補助金の問題点を考察していきます。当記事では補助金をめぐる諸問題について、筆者が語ります。

補助金Bの不正(らしきもの)

私が従事していたグループ補助金でも、残念なことではあるが不正は散見された。いや、この表現は正確ではないかもしれない、「不正らしきもの」といったほうがいいのかもしれない。

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補助金をめぐる不正については「補助金適正化法」に違反したかどうかによるが、グループ補助金で「補助金適正化法」違反で告訴されたのは、私の知る限りでは1件だけである。すでに新聞等で報道されているので、実名を挙げても問題ないのだが、石巻市の水産物加工会社S社としておく。

S社はグループ補助金1億3000万円を不正に受給したとして2013(平成25)年に宮城県から告訴された。S社はある建設業者に工場の工事代金を銀行から送金したが、それは誤送金であったとし、建設業者から工事代金を戻してもらった。

一方で県に対しては、工事代金の支払いは完了したと銀行送金の控えを提示し、補助金を請求し受領した。途中経過は省略するが、その後県は告訴を取り下げ、S社は受領した補助金を分割払いで返却するということで和解が成立した。

したがって、S社は「補助金適正化法」違反による罰則は受けていない。最終的には「補助金適正化法」は適用されなかったのだから、「不正」ではないといえるかもしれない。グループ補助金に限らず「補助金適正化法」違反が適用されるケースは多くないらしい。

「不正」が少ないわけではないのに、なぜ適用されないのか。

県にいたころ、私はその理由を周囲の人に訊いてみたが明確な回答は得られなかった。新田は『全貌』で、前年に制定された「補助金適正化法」について触れ、「この法律ができてから約半年になるが、まだこの法律違反で起訴されたものは一件もない。もっともこれを法文どおりに適用すると、ほとんどすべての関係者がひっかかるともいわれる」と書いている。

執筆時は「補助金適正化法」が制定されてからまもない時期であるので「一件もない」のは当然なのだが、いまだに少ない理由が「すべての関係者がひっかかる」からだということなら問題だろう。

「補助金適正化法」には、不正に補助金を受給した者への罰則規定があるが、この罰則規定は不正を知りながら支給した者にも適用される。『全貌』で新田のいう「関係者」のなかには、補助金を出す国や県も含まれているはずだ。だから「補助金適正化法」違反の適用が少ないのではなくて、おそらくは、「不正」となる前に何らかの善後策が講じられているから適用にまで至らないのだと思われる。