それと少し似ているが、自分を大事にするか、他人を大事にするか、どちらが大切か、ということも同時に考えることにした。最初は、自分に自信を持ち、自分を大事にする利己主義である生き方を僕はしてきたが、よく考えてみると、謙虚でいて、他人を大切にする利他主義の方がいいと思うようになった。

山にこもって六日目。

朝起きたときは雨だったが、昼を過ぎると晴れになった。久しぶりの晴れだったので外に出てみることにした。

しばらく小屋の近くを散歩していたら、僕の前に小さな一匹の蜘蛛がいることに気づいた。僕は何気なくその蜘蛛をまたいで通った。そのとき、僕はなんだかいい気持ちがしたのである。

そして、山にこもってから二日目に考えたことを思い出した。そのとき、人の本性は悪であると、結論付けたのだが、それは違うのではないかと思い始めた。自分がひねくれていたことに気づいた。

真面目に生きれば馬鹿を見るというが、損得の問題ではない。健気に良いことをすればどんなに損をしようが喜びを感じ、すがすがしい気持ちになれる自分に気づく。

良いことをして喜びを感じる人間は、良い生き物ではないか。僕はその日、真実に気づき、昔僕をいじめていた人たちをも、愛せるようになった。

※本記事は、2020年2月刊行の書籍『令和晩年』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。