緑のカーテン、ゴーヤーに異変 平成二十四年九月十二日掲載

早朝、窓を開けるとゴーヤーの花の甘い香りと共に、ミツバチの羽音が聞こえます。ミツバチの仕事ぶりは見事としか言いようがありません。すべての花に訪問し受粉をしてくれます。雌花のほとんどが美味しいゴーヤーの実になっていることが、それを証明しています。

しかし、ゴーヤーに異変が起こりました。まだまだ実が大きくなるはずが、色づいて種をつくり始めたのです。実がつき始めた頃に追肥も与えていたので、大きくなるのを楽しみにしていました。

そんな矢先、日本一暑い町で有名になり、今やゴーヤーの大生産地になった館林の生産農家の話が新聞に載りました。八月中旬から全く雨が降らず、暑さには強いが乾燥には弱いゴーヤーの実が大きくならず、熟して種をつくってしまっているということです。

本州では滅多に咲かない、さつま芋の花が咲いたという記事も載りました。植物の種族保存の本能でしょうか。長期の乾燥状態によって危機感を持ったゴーヤーは早く種をつくって仲間を増やそうと、実が小さいにもかかわらず熟していったようです。大震災をきっかけに作った緑のカーテンは、私たちに植物の知恵と様々なことを教えてくれます。

早咲きの花が問いかける 平成二十五年四月六日掲載

異常なほど桜の開花が早いと思ったら、チューリップも三月中にどんどん咲き出し、ルピナスに至っては早くも花芽がつき出しました。今年の春先の急激な気温の変化が早咲きの原因のようです。

桜の花芽(花のもとになる芽)は、夏の終わりまでにつくられます。花芽は秋には休眠という状態になり、その後一定期間低温にさらされることによって眠りから覚めます。これが開花の鍵と呼ばれる「休眠打破」です。

花芽は気温の上昇とともに発育し、やがて開花します。冬のない常夏の国では休眠打破が起きにくいので桜には不向きで、四季のある日本が最適と言えます。ずっと暖かかった九州より、春先の真冬のような低温から一気に高温になった東京の方が早く満開になったのもうなずけます。同様に秋まきの種や球根も休眠打破が必要で、パンジーの種はしばらく冷蔵保存しておかないと、発芽率が急激に下がってしまいます。

トルコの乾燥地が原産のチューリップにじょうろで水をやると、漏斗状の葉によって一番上の小さな葉から次の葉へ、さらに下の大きい葉へと螺旋階段状に水流が渦を巻いて次々と根元に吸い込まれていきます。早咲きの花にまた一つ、自然の知恵を教えられました。

史上最悪の名前ヘクソカズラ 平成二十五年七月投稿

猛暑の中、フリルのついた小さな筒状の白い花で、中心が赤紫のお洒落な花が、今を盛りにフェンスなどに巻きついて咲いています。その名はヘクソカズラ、漢字で屁糞葛。

ひどい名前の植物は沢山ありますが、ヘクソカズラが文句なく東の横綱です。西の横綱は果実の形をオス犬の金玉に見立てたオオイヌノフグリかもしれません。私が何度この花を「星の瞳」と呼ぼうと訴えても、結局「大犬の金玉」になってしまいます。

ヘクソカズラも横から見た花の形を早乙女(田植えをする娘)のかぶる笠に見立ててサオトメバナという別名がありますが、これも普及していません。葉や茎をもむと悪臭がするので付いた名のようですが、万葉集ではクソカズラで詠まれ、その後「屁」が付いて、より最悪な名前になりました。

英語名はスカンクヴァインで、スカンクのようにくさい蔓草という意味です。この悪臭はメタンチオールという物質のせいらしいですが、鼻づまりの私には臭いません。むしろ、花の中心部のアズキ色が屁糞の出所、つまりオナラやウンチの出る肛門に似ているから付いた名と考えると合点がいきます。命名者も肛門カズラとはつけづらかったので、悪臭があるという意味にしたのかもしれません。

この際、「アナベル」という白いアジサイに対抗して「アナ○カズラ」と改名すれば人気沸騰間違いなしです。
 

LEDの信号機が教えてくれたこと 平成二十七年二月二十三日掲載

青色発光ダイオードの開発で日本人三人がノーベル物理学賞に輝きました。

LED(発光ダイオード)は消費電力が従来の電球の五分の一程度で、寿命は五万時間以上。年一回電球交換が必要だった信号機がLEDの信号機では十年に一度で済みます。更に、LEDには紫外線が含まれず虫が寄ってこない、美術館などの展示物が色あせない、余計な熱が出ないといいことずくめです。

従来の信号機は、西日や朝日を受けると何色が点灯しているのか分からなくなるという最大の弱点がありました。光そのものに色がついているLEDがその弱点を見事に解決してくれました。

しかし、北海道や東北でLEDの信号機が着雪で見えなくなっているというのです。北海道の信号機は、雪の重みで壊れたりしないように、縦型の信号機が多く、雪が積もる面積を減らして雪が落ちやすくしています。にもかかわらず、LED電球は発熱しないため、付着した雪が溶けず信号が何色なのか全く分からないというのです。

発熱しないLEDの利点が、雪国では弱点となります。まるで人間の長所と短所の関係のようです。長所はあるときある場面では短所に、短所もときに長所になりうるということです。

※本記事は、2018年7月刊行の書籍『日本で一番ユーモラスな理科の先生』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。