一度は終息したかに見えた医療事故調査制度問題であったが、2012年に再び議論が動き出す。その経緯を理解するために、厚生労働省の大綱案を今一度振り返る。

病院団体に提示した日本医療法人協会原案について

「患者安全のための世界同盟有害事象の報告・学習システムのためのWHOドラフトガイドライン情報分析から実のある行動へ」(以下、「WHOドラフトガイドライン」という)は、報告制度を「学習を目的とした報告制度」(医療安全の制度)と「説明責任を目的とした報告制度」(責任追及の制度)に大別している。

「説明責任を目的とした報告制度」は、当事者が、処分や懲罰の対象となるおそれがあるため、WHOドラフトガイドラインは、これら、目的の異なる二つの機能を一つの制度で行ってはならないと明示している。

筆者らは、医療に関連した有害事象(いわゆる医療事故)の検証を「医療の内」と「医療の外」に切り分けて論じた(図)。「医療の内」とは、通常の医療の原点である医療者と患者・家族の信頼の上に成り立つ部分である。医療とは、複雑系のハイリスクの科学であり、経過中に予期せぬ不幸な事態に立ち至ることがありうる。

この場合であっても、相互の信頼関係の維持は必要であり、信頼関係が維持されている限り、「医療の内」(一連の医療行為の内、あるいは医療行為の延長線上)として検証し再発防止に寄与すべきものである。この場合の中心にあるべきものは、最も現場に近い部分、即ち、各医療施設である。

従って、第一義的に「院内医療事故調査委員会」で検証すべきものであり、必要に応じて、アドバイザー、顧問、オブザーバーとしての応援を求めうる体制が必要である。(ただし、外部機関はあくまでも援助機関である。)

院内で結論を見出しえなかった場合、あるいは、病院が必要と認めた場合は、地方に設置した院外の第三者機関である、複数の原因分析委員会の内の一つに検証を求める。原因分析委員会は、調査検証チームを組織して、院内事故調査報告書を検証する。(あくまでも報告書の検証であり、医療現場に調査に出向くものではない。)

院外の原因分析委員会の報告は、院内事故調査委員会に戻され、ここで、匿名化された上で、他のヒヤリ・ハット事例とともに、既存の日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業に引き継ぐべきというものである。