「花帆、心配しないで、今はシルバーセンターに頼めば専門の人を安い料金で派遣してくれるから」

「ちょっと待ってよ、シルバーセンターは確か年齢が六十歳を超えている人たちが登録しているのでしょう、父親と同じくらいじゃない、大丈夫かしらね、高い木から落ちたらケガするよ」

「それなりに経験者が登録しているし、事前に現場を見て、大丈夫と思ったら引き受けるみたい」

「そうだよね、ありがとう、両親に伝えておくわ」

久しぶりに会った二人は、話すことが多すぎてどの話題に的を絞っていいのか分からず右に行ったり左に行ったりこれまでの半年の間の出来事を可能な限り凝縮して話すことに努めた。花帆が急に学生時代の思い出を話し出した。

「美代子、覚えているでしょう、私たち高校生の時は美術のサークルに入っていたよね! 私は油絵、貴女は一般の染め物やローケツ染、毎日放課後二時間ぐらい部室で練習していた、と言いたいが殆どサークルの顧問の先生がいないときはおしゃべりしていた。あの時が一番楽しかった」続けて花帆は話し出した。

「大学に進級しても貴女と私は美術のサークルを選んだよね、美術のサークルは部員が少なかったから皆、仲が良かったね、ほら大学の時に入学してきた加藤結衣ちゃん、かわいい子で皆に人気があった。今どうしているのかな、結衣ちゃんはパステル画が得意で景色の絵を描かせると写真のようで遠近感の描写が素晴らしいと先生が絶賛していた」

「彼女も結婚して、青葉台に住んでいるそうよ、私は年賀状のやり取りをしているから自宅の電話番号も分かる」

「今度彼女を誘って三人でお茶しましょうよ」

「賛成」と言いながら美代子は少し冷めた紅茶を口に含んだ。

※本記事は、2020年11月刊行の書籍『揺れ動く女の「打算の行方」』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。