『奇跡の軌跡』

平成の世も晩年に差し掛かった平成二九年七月九日は、大ちゃんこと私伊能(いのう)にとって、忘れられない日となった。もちろん、愛(いと)しいさぎりにとっても。

七月九日午後〇時三五分
上野東京ライン小田原(おだわら)行きの車内にあってJR赤羽(あかばね)駅から新橋(しんばし)駅に向かっていた私のタブレット画面に、さぎりからのメッセンジャー通信が届いた。

さぎり…「“飛ぶ”時間間違えた。アンヌは今七里ケ浜(しちりがはま)」

更(さら)に、暫(しばら)くして、

さぎり…「一時二五分にはつけない」とある。その言葉に続いて、涙(なみだ)と汗をかいた顔文字がならんでいる。

(あらまあ)と私は心の中で呟(つぶや)いた。

アンヌは本名ではない。さぎりが、アンヌを名乗るのは、『ウルトラセブン』に登場して大人気を博した紅点(こう一いってん)アンヌ隊員に因(ちな)んでのこと。

何を隠(かく)そう、さぎりと私を結びつけたのは、円谷(つぶらや)プロが誇(ほこ)る不朽(ふきゅう)の特撮ヒーロー物の名作『ウルトラセブン』にほかならない。正義の味方は、ときとしてキューピッドの役割も果たすという好例である。もっとも、ほかにも例があるかは定さだかでないが・・・。

ウルトラセブンが地球上にあってその名を借りたダンこそ、私の真(しん)の姿(すがた)、ダンの心の恋人であり同志でもあるアンヌこそ、さぎりの真の姿なのだ。