四季がある日本は移ろいやすいのだろうか。
行き交う人々の心や街の景色は千変万化で、過去はさらに記憶の彼方へ押しやられてしまっているかのよう。
だが、南の島々には、あの戦争を経ても変わらぬ日本の心が残されていた。
過去と現在、時間の結び目を探しながら、日本古来の清き明き心を見つける旅の歌短歌集を連載でお届けします。
松の木の梢を見れば中空に 若きサシバの一つが舞へり
押し寄する 津波の上げし巨岩(おほいは)は 還るすべなく草原に臥す
*帯岩(おびいわ)。一七七一(明和八)年、推定マグニチュード七・四~八・○の
八重山地震にともなう津波が押し寄せ、海底の巨岩を陸地に押し上げた。
御神体として祀(まつ)られている。
スズメダイむれてこよなき棲み処(か)なり 珊瑚の森のまはり離れず
*川平(かびら)湾にて。
**スズメダイ 青色の小魚
※本記事は、2014年2月刊行の書籍『歌集 忘らえなくに』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。
序文
短歌とは、日常のささいな出来事を記すものだろう。いくつかを試みた。
私の関心はもっぱら、日本の自然の美しさ、移ろいにある。小笠原諸島や八重山諸島への旅。身近な四季をりをりの移りゆく姿にそれを見出した。
私の生きながらえた七十年の歳月、その間に世界や日本で起きたさまざまな出来事を、ありのままに記しておきたい思いが、胸の底からふつふつと湧き立ってきた。
これはまさしく自分史の一部を記すことでもある。
二〇一四年一月十五日
松下正樹