お前は成人式の時、俺が振り袖を買ってやろうと言っても、いらないと言い張り、俺は買ってやらなかったし、お前は成人式に行きもしなかった。それは、母親のない子にしてしまった俺の責任だと思っている。悪かった。

お前は結婚はしないと言っているが、器量もいいのだから、きっと良い人に出会い、結婚してくれるものと、俺は信じている。その時、振り袖一枚も親から買ってもらっていない娘だと思われるのは、あまりにも忍びない。

それで、俺はこの振り袖を買った。緑は俺の好きな色だし、三十になっているから、赤なんかは着られなくても、この色なら大丈夫だと思い選んだ。

お前の身長が一六〇なのは知っていたから、呉服屋に言って、合うように作らせた。十年も遅れて、申し訳なかったが、受け取ってほしい。

来年の正月にでも着てくれ。その時は写真を撮って、俺に見せてほしい。

父さんは、工場をたたんだよ。もう六十九だからね。ひっそり年金生活を送るよ。体だけは大事にしてくれ。

父より

工場をたたんだのか……。でも、帰って来いとは書かれていないのが、父のプライドだと思った。

箱には他に金糸の帯など、振り袖の一式が揃って入っていた。……何を今更と、私は空々しく思った。

私の年齢を考えてか、梅の花の控えめな柄だった。全くうれしくなかった。袖も通さず、箱のふたをし、クローゼットの奥へしまい込んだ。

※本記事は、2019年6月刊行の書籍『愛』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。