大会社消滅

「何? VIPの車の性能が他社より落ちるということか?」
「はい、実車にて比較しましたが、当社の車のほうが悪かったです。燃費とかブレーキ性能など……」
「ならば、カタログに載せる時、他社に負けない数値に置き換えればいいじゃないか」
「そんなこと、気がとがめます」
「綺麗事を言うんじゃないよ。車なんて売れてなんぼの世界だ!」
「そのうちに排気ガスの規制のほうも厳しくなると予想されます。今から手を打たないと間に合わなくなると思います」
「その時は、その時さ」

こんなやりとりは珍しくなかった。品質管理部門と車両実験部門は、中島社長派と本山常務派の争いの様相を呈していた。

社内の昇級・昇格は中島派が有利であった。三島晃課長は、社外から部品や資材や設備機械を調達する業務に携わっている。公明正大に仕事を進めているつもりだ。けれども、そうした網をかいくぐり、とんでもない動きをする人たちがいた。

VIPの設備担当者と設備メーカーが癒着して売買行為をするのである。設備担当の購入予算を膨らませて注文させ、本来の価格との差額をリベートとして、設備担当者と設備メーカーの担当者が現金を懐に入れるのである。

試作・開発部品の予算は不鮮明なものが多く、急いで調達しなければならないという理由から、非常に高額の物が多かった。試作・開発担当者と製作メーカーの担当者が癒着すれば、いとも簡単に悪事を行うことも可能であったのである。

ひどい事例としては、新車1台がプレゼントされることだってあった。こうした悪例の情報を得ている三島課長は、久山部長に相談した。