これを受けて、O技師長が、許可が出ましたから始めて下さいと言ったところ、L医師ら病理医は、監察医務院の方から後は面倒を見るから法医学に準じた解剖をやってくれと言われたと理解し、解剖が始められた。

解剖所見としては、右手前腕静脈血栓症及び急性肺血栓塞栓のほか、遺体の血液がさらさらしていること(これは溶血状態であることを意味し、薬物が体内に入った可能性を示唆する)が判明し、心筋梗塞や動脈解離症などをうかがわせる所見は特に得られず、「右前腕皮静脈内に、おそらく点滴と関係した何らかの原因で生じた急性赤色凝固血栓が両肺に急性肺血栓塞栓症を起こし、呼吸不全から心不全に至ったと考えたい」と結論された。

解剖後に、M医長は、被告人に対し、撮影したポラロイド写真を持参して、右腕の血管から薬物が入ったようだと説明したほか、L医師は、被告人に対し、副院長二人、事務局長、看護部長のいる場で、薬物の誤った注射によって死亡したことはほとんど間違いがないことを確信を持って判断できる旨、報告した。

同日夕方、D医師は、L医師と相談の上、死亡の種類を「不詳の死」とするAの死亡診断書を作成し、被告人に見せた後にCに交付した。

※本記事は、2020年5月刊行の書籍『死体検案と届出義務 ~医師法第21条問題のすべて~』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。