東京都立広尾病院事件東京高裁判決と医師法第21条

同月十二日午後1時頃、病理医のL医師は、D医師、M整形外科医長らの立会いの下、Aの病理解剖を開始した。外表所見では、右手根部に静脈ラインの痕、右手前腕の数本の皮静脈がその走行に沿って幅5から6㎜前後の赤褐色の皮膚斑としてくっきりと見え、それは前腕伸側及び屈側に高度、手背・上腕下部に及んでいるのが視認され、L医師によれば、D医師は、前腕の皮膚斑を見て、少し驚いている感じ、わあ、すごいなと思った様子であり、これまであまり確実な自覚を持っていたようには見えなかった。D医師らはこれをポラロイドカメラで撮影した。

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L医師は、これらAの遺体の右腕の静脈に沿った赤い色素沈着は静脈注射による変化で、劇物を入れたときにできたものと判断し、協力を依頼していた病理学の大学助教授で法医学の経験もあるN医師の到着を待って執刀することにした。

N医師はAの状況を見て、警察ないし監察医務院に連絡しようと提案した。これを受けて、 甲病院検査科O技師長は、I課長に対し、「病理医の先生がこの患者さんに病理解剖はできない、警察へ連絡しなくちゃいけないんじゃないでしょうかと言っている」と対応について問い合わせたが、I課長は被告人と相談の上、警察に届けなくても大丈夫ですと回答した。