不可解なこの場面を、孝太郎はまだ理解できない。

「ここにいらっしゃるトメさんのことで、重大な発見をしたのです」
「それは……どのような……」
「トメさんは、キツネに憑かれているようなのです」

トメが割って入り高く鳴いた。

「コーン、コーン」
「この前から、少しおかしいんです。だから木島先生に診てもらおうって」

多佳が立ち上がり孝太郎に訴えた。彼女の演技は真に迫っている。

「私は帝大で精神医学を学んでいる者です。主に、地方にある特有の病、女性のヒステリーにも似た症状、すなわち憑依現象について研究しています」
「はあ」
「私どもの大学、すなわち帝国大学でも、千里眼の実験を行っていまして、このような不可思議な現象についても、研究に研究を……。ご主人、トメさん、いや田中さんはすぐにでも保護し、私どもの、帝国大学附属病院に入院させる必要があるのです」

トメは鳴き続ける、高く悲しげに。孝太郎はトメを見つめた。

「そのようなことなら、協力せねばなりませんな」

トメはキツネになって、部屋の中をウロウロしている。

「お父さん、トメさんを助けてあげて……」

襖の向こうで、太い、ドスのきいた声がした。

「木島先生! いや、社会主義者、木島潔、いい加減にしねえか」

大きな体躯の親分がのっそりと現れた。

「旦那さん、失礼しますよ」
「ご主人、困りますよ。お待ちください。娘の病室です」
「こんなに寄ってたかって、賑やかなお祭り騒ぎだ。病気も何もないでしょう」
「親分さん聞いてください。トメさん、心を病んでしまったらしいの」

美津は立ち上がった。

「キツネ憑き。キツネ憑きよ」

晴が叫んだ。

「キツネ憑きだと」
「親分さん、トメさんかわいそうなの。こんなに幼いのに、家族のことをみんな背負わされて、どうしようもなくなって、それで心を病んでしまったの」

※本記事は、2018年3月刊行の書籍『ブルーストッキング・ガールズ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。