ある日届いた、一通の封書。

こんな他愛もないデートが何回あったろう。不思議なことに、香奈は小林から彼の家族について聞いたことがほとんどなかった。一度、小林さんのお父さんってどんな人、と聞いて、話をそらされてしまったことがある。

彼は彼なりに照れたのだ、と香奈は解釈していたが、小林の方も、香奈の家族のことは聞かなかった。おそらく、村上の口からたっぷり聞いているのだろうと香奈は思った。

「楽しかったわ」毎回頬を上気させて帰ってくる妹を見て、村上は肩をすくめた。

「あんな朴念仁のどこがいいんだ?」真面目な顔をしていった村上に、
「お兄ちゃんなんか嫌いよ」香奈は目だけは笑いながら口を尖らせた。

そうこうしているうちに夏休みになると、小林は夏は北の方に出かけるのだといって、不満そうな香奈を残して一人旅に出てしまった。

しばらくすると、一通の封書が届いた。開けてみて香奈は自分の部屋に駆け込むとわっと泣き伏した。

それが、短い夏の終わりだった。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『百年後の武蔵野』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。