なぜ、認知症なんかになるんだ――。 物を失くす、使えなくなる、物忘れが増える……。 刻々と変わりゆく妻の様⼦に⼾惑う⽇々。 初めての介護に苦戦しつつも、⾃分なりの⼯夫をして乗り越えてきた。 葛藤と妻への感謝をありのままに綴ったエッセイを連載でお届けします。

着替えができずに、同じ動作を繰り返す

何度も繰り返され困ったことが起こった。

デイサービスの日は、お迎えの車が、8時30分前後に来る。その2時間前にいつも起床させていた。私は、朝食の準備をして台所で待機していた。7時30分になっても2階から下りてこない。着替えに時間がかかり過ぎている。寝ているのかな? 何をしているのかと見に行った。

寝間着姿のまま、自分のタンスを開けながら、上着や下着を出したり入れたりを繰り返していた。

「何してるの? 今日はデイサービスの日やから、早く着替えて、ごはん食べないと」
と催促した。

「お父さん。私、どう着替えたらいいのか、分からなくなったの」
情けなそうな顔で訴えた。下着なのか上着なのか、どの順番に着ればいいのかが分からなくなってしまっていた。情けなく思った。

「分かった。お父さんも手伝うわ。最初に着るのは、肌着だから、先ず、これを着て」
と肌着を手渡した。そして、順番に衣類を手渡し、上着とズボンまで着ることができた。羽織るものは、どちらにするかは自分で決めさせた。準備完了。

「ほら、できた。格好いいやん。鏡台で見てみ」と自分の姿を確認させ納得させた。1階に誘導し2人で食卓についた。迎車5分前だった。

お迎えの車が来た。スタッフから、
「棚橋さん。お早うございます。今日は、爽やかな感じで、いいですね」
と褒められ、
「そう、ありがとう」と笑顔で車に乗り込み出かけた。

その後はデイサービスに行く前日に肌着と洋服を決めさせて、洋服は壁に吊り、下着は着る順番で枕元に重ねて置くようにした。最初は着るとき、もたもたしたこともあったが、何とか自分で着てくれていた。これを毎日繰り返した。簡単なことだが毎日は大変だった。