一度は終息したかに見えた医療事故調査制度問題であったが、2012年に再び議論が動き出す。その経緯を理解するために、厚生労働省の大綱案を今一度振り返る。

・厚労省大綱案の概要

2008年(平成20年)6月、厚労省は「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」を発表した。名称のとおり、権威的な第三者機関を設置することが目的の法案である。同法案は第2次試案・第3次試案を念頭に解釈する必要がある。

同法案の目的に2つのことが記載されている。

1つは医療安全調査地方委員会を設置し、医療事故等の原因究明のための調査を行わせるというものであり、他の1つは、医療安全調査中央委員会を設置し、医療安全確保のための措置について勧告等を行わせるというものである。中央と地方に権威的な調査機関を設置するものであり、国家機関の直接管理下に置かれる。

今回成立した医療事故調査制度と比較して考えれば、恐ろしい制度であることがよくわかる。目的そのものからして処罰の機関であることは明白である。以下、若干記載しておきたい。

【1】今回の医療事故調査制度は、医療機関から医療事故として報告のあった事案以外は、遺族等から直接調査の請求はできない仕組みとなっている。一方、大綱案は、遺族が主管大臣に対し、医療事故調査を行わせるよう求めることができ、求めがあれば、直ちに地方委員会が事故調査を開始しなければならない。

地方委員会は、医療提供者および関係者に報告を求め、施設に立ち入って検査し、関係者に質問する。ずかずか土足で入り込んで来るのである。出頭を求めることもできる。これは取り調べそのものであろう。医療事故死等の現場を立ち入り禁止にできる。将に警察捜査そのものである。

「犯罪捜査のために認められた権限と解釈してはならない」との記載が空々しい。