長年の夢が叶い、宮廷に召しかかえられることとなった王暢(ワンチャン)。
人身売買から救い出した踊り子・曹洛瑩(ツァオルオイン)は、今や帝の妃となり寵愛を一身に受ける身となっている。
王暢は上司である駄熊太(ドゥオシュンタイ)との会話を、偶然にも彼女に聞かれてしまい……。

あのようなお方に見込まれるとは、めったにないことだぞ。

駄熊太(ドゥオシュンタイ)師父は、ばつが悪そうに言った。

「われらの会話も、すっかり聞かれていたのであろうな……まあ、聞かれたのが、あのお方でよかった。あのお方は、諧謔家(かいぎゃくか)の毒語でも、笑って聞いてくださる心のひろさをお持ちだからな。あれが方(ファン)皇后や、ほかの皇妃であったら……」

「はい……」

「ほんとうは、そなたは、新任なった秉筆(へいひつ)太監の肝煎(きもいり)で、そっちへ転属になる予定だったのだ。ところが、異動が公になる直前、曹端嬪(ツァオたんぴん)がそなたを所望したのを、皇上がおききとどけになってな。帝の命令とあらば、さからうわけにはいくまい」

そういうことだったのか。田閔(ティエンミン)は、でたらめを告げたのではなかった。李清綢(リーシンチョウ)師父は、私を引っ張ろうとしてくれたが、その要請よりも、帝の命令が優越したということのようである。

「それにしても、そなた、運がよいな。曹端嬪(ツァオたんぴん)に見込まれるとは、めったにないことだぞ。ああいう方は、世間知らずにはちがいないが、こと人物に関する直感だけは、異常にすぐれておられるものだ。われは、もう行かねばならぬ。王暢(ワンチャン)、そなたは顔と名前が一致するよう、記憶にはげめ。他のかたがたも、しっかりおぼえておくのだぞ。曹端嬪(ツァオたんぴん)だけが、妃嬪ではないのだからな」

「はい」