大変なことを引き受けてしまった…こうなったらやるしかない!

「ジャンヌダルクが現れたのは十五世紀のことで、百年戦争とよばれたフランスとイングランドの戦いのときです。フランス軍は連戦連敗で、もはやイギリス軍が勝利を目前にしていたような情勢でした。そんなときに彼女は彗星のように現れて、フランス軍を勝利に導き、英雄になります。しかも、そのときわずか十七歳の少女だったんですよ」

「よくお芝居やなんかでやってますね」まゆみが相づちを打った。

「最近の主人の状況は、まさにそのときのフランス軍のようでした。敵は大軍で圧力をかけてきて、いまにも押しつぶされる寸前まで追い詰められていたようです。わたしにはあまり話してくれませんでしたが、以心伝心で、状況はよくわかっていました」「でも、わたしにはジャンヌダルクになる力はありません」

「なれるかなれないかは、これからのことです。どうか主人の願いを聞いてやっていただけないでしょうか。一昨日来られていた磯部さんも協力してあげるといわれていることですし。そして大事なことは、革命は女性が立ち上がらなければ決して成功しないということです。世界中の例を見ても、成功した革命の裏には必ず女性の戦いがあるんですよ」

「そうですか。わかりました。せっかくここまで来たことだし、わたしにできるかどうかはわかりませんが、やれるところまでやらせていただきます」

「ありがとうございます。主人もきっと喜びますわ」
ではさっそくですが、お借りして、見せていただく資料を選びたいと思います」

そういって、沙也香は腰を上げた。大変なことを引き受けてしまったという気持ちでいっぱいだったが、ここまでくればやれるところまでやるしかない。

※本記事は、2018年9月刊行の書籍『日出る国の天子』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。