ん? ん? ? ん? ? ? この流れ。マコト、こいつ! 外道がぁぁぁ!!! 全部のせスペシャル欲しさに、とうとうゲリラ作戦に出やがった。『かめへん、かめへん』は、本来の意味である第一形態「構わない」が進化して、第二形態「構わへん」となり、最終形態「かめへん」に進化を遂げた進化系関西弁である。

マコトはウィダーインゼリーを持ち出して、噛むのか、噛まないのか、という議論を巻き起こして、『噛めへん、噛めへん』にすりかえて処理しようとしている。また、最近の田中先生がウィダーインゼリーを日常的に好んでごくごく飲んでいるという、誰が興味あんねん、という田中先生あるあるも全て計算したゲリラ作戦なのである!

それに勘付いた僕は「マコト、それはセコイぞ!」と罵声を浴びせたが、マコトは僕を無視して、ドリブルでペナルティエリア内に切り込む。

「田中先生は、よく、ウィダーインゼリー食べてはりますやん?」

先生は「せやな。あれ、便利で美味いねんなぁ」と返す。

「あれは、どうやって食べます? 噛んで食べますか?」

ゴール前に強引なドリブルで切り込み、ペナルティエリア内で鋭い無回転シュートを放ったマコト。田中先生が口を開く。マズイ! この感じはマズイ! 小林、タケ、僕の意識が先生の口元に集中。時が止まる。

そして……、「ウィダーインゼリーは……、噛まないで、飲むなぁ」

「噛めへん」不発!!! 危ない! 完全に危なかった。『かめへん、かめへん』の革命フレーズが出てもおかしくない局面。田中先生の天然ファインセーブがシュートを阻み、マコトは唇を噛んだ。

マコトが失速。ここしかねえと思った僕は小林を差し置いて、攻撃を仕掛けようとした。瞬間、委員長の美樹が田中先生に大きな声をかけた。

「うわぁ、先生!」

その甲高い声に「何や?」と先生が反応。「先生の背中、真っ白になって汚れてます」「ほんま? なんでやろ?」「多分、黒板の白チョークがついたんです。黒のスーツやのに。ちょっと脱いでください。払いますわ」「いや、ええよ。自分で払うから。それより盛り上がってきたし、はよ、文化際の出しもん決めよや。委員長仕切って」「ほんまにいいんですか? 先生」「かめへん、かめへん」

ピピィィィィィィィ!!!

―『かめへん、かめへん』発動にてゲーム終了。

あっさりと革命を起こしたのは、まさかの委員長の美樹であった。

少しの間があって。僕ら四人は大爆笑した。マコトも、タケも、小林も、僕も。体をくの字に折りたたんで笑った。田中先生の革命フレーズに、腹を抱えてゲラゲラと笑い転げる僕たち四人。腹がよじれるほどに痛すぎて、何も言葉を繰り出せないくらいの大爆笑。

―なぜに、あれほどまでに笑ったの?―

後から聞かれたって、何のどの部分が面白くて、あんなに大爆笑できたのか論理的に説明することなんてできない。おそらく自分たちのイメージしていた展開が心地よく裏切られて、異なる角度で物事がさらりと終結したことや、ラーメンごときで一生懸命阿呆な企画に全力で取り組んでいた熱や、オンボロ校舎から出ている古臭い空気だとか、この時の緊張だとか緩和だとか、放送チャイムの音が今日はなんだか胸に響いたことや、夕刻という再び腹時計が鳴り響く時間帯だったこととか、雲ひとつない突き抜けるような青空だったことや、諸々。

物質的なこと、精神的なこと、時間的なこと、空間的なこと、様々な事象が複雑に絡み合って丁度良いスイートスポットに着地したから、腹がよじれるぐらいに僕たち四人は笑ったんだと思う。

そういう意味においては、複雑に絡み合って醸成されたその時間や空間は、再現性の無いある種の奇跡と言えるのかもしれない。メイドイン尼崎な僕らの青春の日々は、いつだってそんな他愛の無い奇跡と共に抱き合わせで存在していたのだ。

※本記事は、2019年11月刊行の書籍『尼崎ストロベリー』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。