タケは「よっしゃぁぁぁぁぁ! 全部のせゲットォォォ!!!」と叫んでガッツポーズ。坊主頭を激しくヘドバン。

この坊主、やりやがった。策士だ、こいつは。便覧を隠すというトラップを仕掛ける。それから、クラッツィーというワードを田中先生に認識させ、便覧で調べさせるまでの動線まで算段していた。

後からわかったことだが、このクラッツィーという言葉もタケが考え出した嘘偽りの造語だ。しかも「先生が職員室にしばしば世界史便覧を忘れてくる」という誰が興味あんねん、という超地味な田中先生あるあるも、この戦略の中に織り込まれていたことについても、僕は感服の極み。全ては坊主頭の中で構築された算段の元に、『しもた』を誘発させたタケを形容するなら、間違いなく現世に輪廻した軍師・黒田官兵衛なのである。

マコトと小林は悔しそうな表情を浮かべた。その後、クラッツィーという言葉がタケの嘘だったこと、便覧を隠したことの悪戯行為が先生にバレて、勧善懲悪物語のお約束シーンのように田中先生はタケを注意して叱った。

しかしながら、タケはそんな些細な事はどうでもよさそうで、僕らのゲームにおいて一抜け勝利したことを誇るように、生徒用椅子にドシッと座り、僕らを完全無欠のドヤ顔で見下した。その坊主頭に僕らの腸が煮えくり返りまくった。

ラーメンを勝ち取るためには、もう二位の一枠しか残されていない。この一枠をかけて、マコト、小林、僕が争う。

その後、激しい攻防を繰り返しながら、少しの時間が経った。マコトが4本、僕が2本、小林が1本のシュートを放ったのだが、田中選手のファインセーブによりゴールならず。ラーメン並をかけた三つ巴合戦に決着はつかない。

僕らの戦いを俯瞰している優雅で余裕なタケが目に入った。調子に乗った坊主頭が一層腹たつ。

ん? 待てよ? 僕らはよくよく考えた。この戦いで1ポイント取って勝ったって二位の並ラーメンだ。全部のせスペシャルを食べられるわけではない。やはり、青春時代真っ只中を駆け抜けている僕らにとって、全部のせスペシャルは相当捨てがたい。

願わくば、全部のせを喰らいたい。そうして満腹になりたい。それならば……、やるしかない。革命を、革命を起こすしかない……。革命だ、革命。ヴィヴァ・ラ・レヴォリューション。

委員長の美樹が仕切り直す。

「じゃあ、ここらで皆の多数決をとった結果をまとめると、今のところ、タピオカのカフェか、たこ焼き屋ってところですねぇ」

田中先生が委員長に合いの手をいれるように「そうやなぁ、このどっちかで決めよか」と言った。

僕は、マコトと小林の表情を確認した。完全に今までとは「眼」が違う。勇ましい漢の表情だ。もはや体力を温存しようという気など毛頭ない。合図があれば獲物に飛びかかるつもりでいる野生の眼。

僕は理解した。三人の漢が「革命」を起こそうとしている。黒田タケ兵衛が君臨する権力体制の抜本的な社会変革を望んでいる。タケという強欲の権現から、全部のせスペシャルを奪還するのだ。

「じゃあ、サクッと決めちゃいましょう。誰か意見ある人いますか?」

委員長の質問をゴングと位置づけて、マコトが「はい!」という声で挙手をした。続けて「僕はタピオカです」と言った。

田中先生が「マコトは何でタピオカなんや?」と問うと、マコトは「先生、逆に質問なんですけどね?」と前置きをした。「タピオカって食べたことありますか?」「いや、先生、実はないねん。流行ってるんは知ってんねんけどな」「でしょ? タピオカの食べ方って知ってます?」「いや、そりゃ噛んでモチモチした食感を楽しむもんなんやろ?」「先生、実はちゃうんですよ。みんな日本人はそうしてますけど、海外では、実は噛まないで食べるんですって。日本人は間違ってるらしいですよ。タピオカは噛まずに飲み込むんが、世界基準らしいです」「そうなん?」と田中先生は妙な顔をする。

「タピオカって、噛まずにそのまま飲んで喉ごしを楽しむもんらしいです」

本当か嘘か、よくわからないマコトの海外タピオカ飲み方話だが、堂々たる態度で大きな声で喋るので妙に説得力があり、クラス全員がマコトの話に耳を傾ける。女子トレンドであるタピオカを妙に知っているマコトに僕はかなりの胡散臭さを感じる。

「マコトぉ、それほんまやったら勉強なると、先生、思うわ。その海外の食べ方と日本人の食べ方の違いを調べて課題発表してな。ほんで、それと連動させて実際にお店でタピオカを販売するとかも面白いかもなぁ」美樹が「マコト、それ、ほんまの話なん?」と嫌疑のカノジョ目線を向ける。

「いや、ほんまやって! タピオカって、ゼリーが固まった粒々みたいなもんやんか。それやったら、ウィダーインゼリーを噛んで食べるんかっちゅう話ですよ」

※本記事は、2019年11月刊行の書籍『尼崎ストロベリー』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。