ポジティブ VS ネガティブ

夏休みに入った禅は、合宿に入る前に実家に帰省していた。
禅と賢一は、ファミリーレストランで会った。

「相変わらず、バスケットが上手いらしいな」
「お前も天才街道まっしぐらだろ? そうだ、官僚になるんだろ?」
そう言って笑う禅を見て賢一は言った。

「だから天才じゃないって、努力しか能が無いんだ、俺はアリだから勉強して、あくせくやるしか無いんだ」

それを聞いて禅は笑った。
「そうだったな、お前がアリで俺がキリギリスだったよな」
「そうだ」

「何度も言ったが、俺はアリとキリギリスのような結末にはならないぜ、キリギリスは寒さに耐えられる宮殿を作り、蓄えをして冬を乗り越える……そして永遠に音楽を奏で続けるんだ……そう永遠に……」

「お前は、本当に昔からポジティブだな」
「お前がネガティブすぎるんだよ」

二人は笑った。賢一は、急に真面目な顔になった。

「どうした?」
「いや……お前はいいよな」
「え?」
「お前は、大学を出ても辞めても、親父の会社があるからな、うらやましいよ……俺は病気がちの母親の事もあるし、勉強するしかないんだ。逃げ道が無いからな……だから頑張って俺は官僚になるしかない」

「賢一……」
「逃げる事は許されない、だから決められた堅い道に進みたいんだよ」

禅は、賢一が追い込まれているような気がした。その空気を換えるために禅は笑った。
「お前、まるで俺がバスケットがダメで、親父の会社を継ぐみたいな事を言うな」

賢一は、それを聞いて慌てて困った顔をした。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『アリになれないキリギリス』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。