大丈夫。いつか春がやってくるから
第一志望の大学で充実した日々を送る沢波俊樹。
サークルで出会った、一見クールでひときわ美人な春田恵美と、高校時代からの友人で気心の知れた木下和との間で揺れ動く心。
そんな彼に、恐ろしい病魔が迫っていた――。
青春のときめき、切なさ、葛藤、温かさを爽やかに描いた、感動の純愛小説を連載でお届けします。
そして一息ついた。夕食はすでにすませていた。京都に戻って初めて、そして久しぶりの外食だった。食事にはいまだ過剰なほど注意しているので、思いつく良さそうな店を選んだ。
アパートから少し離れた学生街にある手作りの定食屋。久しぶりに食べたその料理は、店の客のほとんどである学生のために、心を込めて作られていることが今になってよくわかった。主菜だけでなく、副菜にも優しい手が加えられている。『あんたがた、ちゃんと「食事」をせんといかんよ』と。
そんなありがたさを以前ならば感じることはなかった。ただその感謝を伝えようにも、会計をするときには無意識に目を逸らしてしまうので、しばらくは難しそうだ。
そう、今人と相対するときに目を見て話すことができなくなっているのだ。加えて、なぜだか過度に緊張して、うまく言葉が出てこないこともある。そういえば去年高知に戻る直前に怒られたことがあった。
『ちゃんとあたしを見て話をしてよ! 目を逸らしたいのはわかるけど、あたしはそんなのまったく気にしないから!』
でもおよそ二年もかけて作り上げてしまったくせはそう簡単に抜けるものではない。
人に対する恐怖、人に嫌われたくないという恐怖だろうか。いやそれ以上に、ごく普通に自分というものを持って、理性的に社会生活ができるのだろうか、という強い不安を植え付けられたままだからそういう行動にでるのだろう。それに今はまだ、負の感覚が生み出したモンスターが、頭の芯からいなくなったとは到底思えないのだ。
一緒に大学の門をくぐった友達とは一学年違うことになった。これは、もうこの先彼らとは会わなくなるかもしれないということを意味する。
ただし、積極的につながりを持とうとしてくれる友達が数名いることは救いになっている。そして、体を支えてくれる方々が近くにいることも心強い。
目指す先に向かって歩いていくための、現時点での最善の状況はできていた。
あとは踏み出せるかどうか……。
※本記事は、2020年11月刊行の書籍『桜舞う春に、きみと歩く』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。
★邪気指数、新陳代謝指数、正気指数
漢方の立場で見た、主人公沢波俊樹の体調を示します。本来、漢方にはこんな指数はありませんが、これに近いことをもっと細かく考えながら対処します。これらの変化は人によって異なります。
●邪気指数
体の中に溜まった不要なもの(邪気)の量を示す指数です。邪気は誰の体の中にもあります。食事の質や偏り、嗜好品、食べる時間などで変化しやすく、新陳代謝指数が下がり排出が悪くなることでも上昇します。邪気がかゆみの元にもなることがあります。ここでは50~150を正常範囲とします。150を超えると体調を崩しやすくなります。ただし、正気指数が高い方は、邪気指数が高くなっても体調を維持することができます。
●新陳代謝指数
体の中の、良い物(正気)、悪い物(邪気)がどれだけスムーズに動いているかを示す指数です。通常人が生きていく中で、良い物(新)を取り入れて、いらないもの(陳)を排出しています。それがスムーズに動いていること(代謝)が大切です。飲食の消化吸収、大小便での排出、血流、発汗などトータルの指数とします。運動不足やストレスなどで低下します。ここでは70~100を正常範囲とします。新陳代謝指数が下がると邪気指数が上がりやすくなり、下がっているときには正気指数も下がっていることが多くなります。
●正気指数
体の元気(エネルギー≒正気)の指数です。バランスの良い飲食で満たされ、ほど良い休息をとることで作られます。逆にストレスや過労で低下します。正気が少なくなると、体のだるさや意欲の低下がみられ、免疫をコントロールする力が弱り、かゆみを抑えられなくなり、症状が悪化します。ここでは70~100を正常範囲とします。正気指数が高いと新陳代謝指数は上がりやすく、邪気指数が少々高くても生活に支障はありません。