アッキーはさっきの言葉を飲み込むとじっとひまりの目を見つめた。ひまりも口を固く閉じて何も言わずにいた。

すると、ホームに滑り込んで来た電車の発車メロディーが鳴った。アッキーはひまりの手首をつかみ、赤いリュックサックも持ってふたりで電車に飛び乗った。

アッキーは声を出さずに口もとだけで笑顔を見せた。ひまりはまだ固い表情のまま、もう一度『ごめんなさい』を言った。アッキーは、

「行こう、一緒にお見舞いに行こうよ」

今度は明るい大きな声でひまりに言った。

「ありがとう」
「面会時間が終わるのが、五時なんだ、間に合うかな? 急ごう」
「本当にごめんなさい」

何度も謝るひまりに、

「もういいよ。そんなに謝らなくて。それよりひまりが面会できるかどうかわからないよ。俺は息子だから大丈夫だと思うけどさ」
「わかってる、手紙を書いてきたから、それだけ病院の受付に渡して帰ろうと思ったの。会えなくてもいいの」

そう言いながらひまりは今日初めての可愛い笑顔をアッキーに見せてくれた。そんな話をしていたら乗り換えの駅を通り過ぎてしまった。

あわてて次の駅で降りると、ひまりはアッキーに赤いリュックサックを持ってもらっていることに気付いた。ひまりが赤いリュックサックを持とうとするとアッキーは、「いいよ、持つよ」と、返事をしたが、「アッキーママへ大事な手紙が入っているの、自分で持つから大丈夫」と言いながらひまりはもう一度、赤いリュックサックに手紙が入っていることを確認した。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『ずずず』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。