木島はトメの肩をポンと叩いた。

「これは、戦いです。人間を人間とも思わない、女を女とも考えない大人たちとの戦いです」

晴が興奮して木島に訴える。

「そうか、分かった。田中トメ君!」
「は、はい」
「元気を出したまえ。私がきっと助け出してあげるから」
「本当ですか」
「痩せても枯れても、私は作家木島潔だ。困っている女の子ひとりを開放できなくてどうする」
「でも、相手は遊郭の大親分なんですよ。恐ろしい強そうな子分たちも大勢いるんですよ」

喜久が心配そうに小声で訴える。

「そこは目には目、歯には歯というわけにはいかないよ。ひとつ妙案がある」
「どうするんですか?」

晴の声はますます上ずっている。

「いいか、田中トメ君に、キツネになっていただく」
「なるって?」

晴が不思議そうに木島を見た。

「キツネ憑き!」

喜久が声を上げた。

「あれよ、おばあさんがよくなるやつ」

多佳が声をひそめる。

「私の家の近くのおばあさんも取り憑かれて、池に落ちて死んだんだ」
「死んだ!」

晴が泣きそうな声を上げた。彼女の感情はグルグルとかき回されているようだ。

※本記事は、2018年3月刊行の書籍『ブルーストッキング・ガールズ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。